動機と楽句
約 15 分
この節のねらい
曲はいきなり曲として生まれるのではなく、小さな単位の積み上げでできています。いちばん小さい単位が動機、それが集まったものが楽句です。
- 動機を「それ以上分けると意味を失う最小単位」として説明できる
- 動機の変形(反復・移高・反行・拡大縮小)を区別できる
- 楽句を、カデンツで区切られる単位として定義できる
- 2小節・4小節という長さが標準になる理由を拍節の観点から説明できる
この節の内容
ここまでの7ユニットは、すべて縦と横の近い範囲の話でした。和音1つの中身、和音2つのつなぎ方、旋律の数音の動き。
ここから視点を引きます。それらが集まって、どうやって曲の形になるのか。この階層を扱うのが形式論です。
曲は入れ子でできている
言語に文字・単語・文・段落という階層があるように、音楽にも階層があります。
| 単位 | 目安の長さ | 何で区切られるか |
|---|---|---|
| 動機 | 1〜2小節 | それ以上分けると特徴が消える |
| 楽句 | 4小節 | カデンツ |
| 楽節 | 8小節 | 半終止+正格終止の対 |
| 部分 | 8〜32小節 | まとまった終止と反復記号 |
この節では下2つ、動機と楽句を扱います。
動機 — 分けると消えてしまう最小単位
動機とは、旋律とリズムを合わせた最小の単位です。それ以上分解すると、特徴が失われて意味をなさなくなります。
長さでは決まりません。2音でも動機になりえます。ベートーヴェンの交響曲第5番の冒頭は、同じ音を3回鳴らして4つ目で下がる、たった4音です。この4音が全楽章にわたって形を変えながら現れます。
動機が動機として働くには条件が1つあります。もう一度出てきたときに、それと分かることです。1度しか現れない4音は、ただの4音です。繰り返されて初めて動機になります。
動機を変形する4つの手
同じ動機をそのまま繰り返すだけでは飽きられます。曲は動機を変形して伸ばしていきます。代表的な手が4つあります。
| 変形 | 何を変えるか |
|---|---|
| 反復 | 何も変えず、そのまま繰り返す |
| 移高 | 形を保ったまま、高さを変える(前のユニットの反復進行) |
| 反行 | 上下を反転させる。上がっていた形が下がる |
| 拡大・縮小 | 音価を伸ばす、または縮める。旋律の形は変わらない |
1つの動機を4通りに変形する
確認: すべて図1と同じ4音の形からできています。1つめはそのまま、2つめは2度上げただけ、3つめは上下を反転、4つめは音価を倍に伸ばしたものです。音は変わっているのに、どれも同じ何かの仲間だと感じられるはずです。この「同じ仲間だと分かる」感覚が、形式を成り立たせています。
素材そのもの
確認
ある動機が、もとの形の上下を反転した形で現れました。この変形を何といいますか。
楽句 — カデンツで切れる単位
動機が集まると楽句(フレーズ)になります。標準的な長さは4小節です。
ここで重要なのは、楽句の切れ目を決めるのが小節線ではなくカデンツだという点です。小節線は拍を数えるための線で、意味の切れ目とは関係なく等間隔に引かれます。フレーズがどこで終わるかは、和声が区切りを作ったかどうかで決まります。
ユニット4で学んだ終止形が、ここで構造を切り分ける道具になります。
4小節のフレーズを、区切りの有無で聴き比べる
確認: 1つめは4小節目で V に着いて止まります。半終止なので「まだ途中」という感じで切れます。2つめは同じ3小節のあと I へ帰ります。正格終止なので、そこで一区切りついたことがはっきりします。同じ長さでも、最後の1和音でフレーズの意味が変わります。
I – IV – ii – V
なぜ4小節なのか
4小節という長さは慣習ですが、根拠がないわけではありません。拍節の入れ子構造から来ています。
ユニット0で、拍には強弱があり、強拍と弱拍が交互に来ると学びました。同じことが小節どうしのあいだにも起こります。2小節を1組にすると、前の小節が強く、後ろの小節が弱く感じられます。その2小節組をさらに2つ並べると、前の組が強く、後ろの組が弱くなります。
この入れ子が続くので、2の累乗の長さ(2小節・4小節・8小節・16小節)がまとまりとして自然に聴こえます。4小節が特別なのではなく、2の累乗であることが効いています。
ただしこれは絶対の規則ではありません。3小節や5小節のフレーズは実際に存在しますし、意図的に1小節足したり削ったりして「予想を裏切る」書き方もあります。裏切りが効くのは、聴き手が4小節を期待しているからです。
確認
6小節のフレーズを書きました。これは誤りですか。
フレーズは小節線から始まるとは限らない
もう一つ、実際の曲を分析するときに引っかかりやすい点があります。フレーズの始まりは、必ずしも小節の頭ではありません。
小節の最後の拍から始まって、次の小節の1拍目へ着地する。この始まり方を弱起(アウフタクト)といいます。
弱起があると、楽譜上の小節線とフレーズの切れ目がずれます。4小節のフレーズが、楽譜では5小節にまたがって書かれることになります。
歌詞のある曲では、この形が非常に多くなります。日本語でも英語でも、文が強い音節から始まるとは限らないからです。「あなたが」の「あ」は弱く、「な」に重みが来る。その自然な言葉の運びに合わせると、旋律は弱起になります。
分析するときは、小節線を数えるのではなく、強拍がどこに来るかを聴くことが大事です。前の節までで扱ってきたカデンツの位置も、小節線ではなく強拍を基準に判断します。
動機から楽句へ
実際の楽句は、動機をいくつか並べて作ります。よくある組み立て方は2小節の動機を提示し、それを変形して2小節を足す形です。
これで4小節になり、最後にカデンツを置けば楽句が1つ完成します。次の節では、この楽句を2つ組み合わせて楽節を作ります。
形式ビューアでフレーズの区切りを見る 「平行楽節」を選んで、まず「ここだけ再生」で前半と後半を別々に聴いてください。区切りの位置が耳で分かります 形式ビューア → ステップシーケンサーで動機を作って変形する 4音の動機を打ち込んだあと、同じ形を高さだけ変えて置き直すと移高になります ステップシーケンサー →動機は素材、楽句はその素材でできた1文です。次の節では、文が2つ組み合わさって問いと答えになる仕組みを扱います。
練習問題
答えは理論エンジンで検算しています。まず自分で解いてから採点してください。
- 1
動機(モチーフ)の定義として最も適切なものはどれですか。
- 2
ある動機を、同じ形のまま2度上の高さで繰り返しました。この変形を何といいますか。
- 3
楽句(フレーズ)の終わりを決めるのは何ですか。
- 4
ハ長調で、あるフレーズの最後の2和音が Dm から G でした。このフレーズの終わり方はどれですか。
- 5
西洋音楽で4小節という長さのフレーズが標準になった理由として、最も説明になっているのはどれですか。
到達確認
次に進む前に、上の項目を自分の言葉で説明できるか確かめてください。