転回音程と複音程
約 13 分
この節のねらい
音程の上下を入れ替えると度数の和が9になり、長と短、増と減が入れ替わります。この規則には理由があり、完全音程が「完全」と呼ばれる理由もここで分かります。オクターブを超える複音程の数え方も整理します。
- 転回音程の度数が「9 から引く」で求まる理由を説明できる
- 転回で長⇄短、増⇄減が入れ替わり、完全は完全のままである理由を説明できる
- 複音程を単音程に還元して名前を言える
- 転回を使って、覚える音程の数を半分に減らせることを説明できる
この節の内容
前の節で、音程は「度数」と「種類」で決まると確認しました。この節では音程をひっくり返すと何が起きるかを見ます。
一見すると小手先の操作のようですが、転回は和音の理解にそのまま直結します。和音の転回形(第1転回・第2転回)は、この音程の転回の応用です。
転回とは上下を入れ替えること
転回(inversion)は、下の音を1オクターブ上げる(または上の音を1オクターブ下げる)操作です。2つの音の上下関係が入れ替わります。
C–E(長3度)を転回すると、C を1オクターブ上げて E–C になります。
音名の集合(C と E)は変わっていません。それでも音程の名前は長3度から短6度に変わります。度数も種類も変わったことになります。
度数の和は必ず9になる
転回すると度数はどうなるか。規則は単純です。
元の度数 + 転回後の度数 = 9| 元 | 転回後 |
|---|---|
| 1度 | 8度 |
| 2度 | 7度 |
| 3度 | 6度 |
| 4度 | 5度 |
| 5度 | 4度 |
| 6度 | 3度 |
| 7度 | 2度 |
| 8度 | 1度 |
なぜ9になるのか。前の節の「両端を含めて数える」がここで効きます。
オクターブ全体(8度)の中に2つの音があるとき、下の音から上の音までがa度、上の音から次のオクターブまでがb度だとします。両方の区間で境目の音を2回数えているので、a + b は 8 + 1 = 9 になります。数え方の約束から必然的に出てくる数字で、覚える必要のある数字ではありません。
確認
短7度を転回すると度数は何度になりますか?
種類は入れ替わる — 完全だけは変わらない
度数と同時に、種類も規則的に入れ替わります。
| 元の種類 | 転回後 |
|---|---|
| 長 | 短 |
| 短 | 長 |
| 増 | 減 |
| 減 | 増 |
| 完全 | 完全 |
理由は半音数で確認できます。オクターブは12半音です。元の音程が n 半音なら、転回後は 12 − n 半音になります。
長3度(4半音)→ 12 − 4 = 8半音 = 短6度 ✓ 完全5度(7半音)→ 12 − 7 = 5半音 = 完全4度 ✓ 増4度(6半音)→ 12 − 6 = 6半音 = 減5度 ✓
ここで完全音程が特別である理由が見えます。完全1度(0半音)と完全8度(12半音)、完全4度(5半音)と完全5度(7半音)は、互いに転回の関係にありながらどちらも「完全」です。前の節で「1・4・5・8 度だけ完全という言葉を使う」と説明したのは、この閉じた対称性を持つ4つだからです。
長短系(2・3・6・7度)は転回すると長⇄短が入れ替わるので、この対称性を持ちません。だから別系統の言葉が必要になったわけです。
転回すると響きはどう変わるか
確認: 1つめは長3度(C–E)。2つめはそれを転回した短6度(E–C)です。使っている音名は同じなのに、響きの印象が変わることを確かめてください。3・4つめは完全5度とその転回の完全4度で、こちらは印象の変化が小さく、どちらも安定して聞こえます。
4半音
確認
増2度を転回すると何になりますか?
転回は覚える量を半分にする
転回の実用的な価値は、覚えるべき音程の数が半分になることです。
耳のトレーニングで長6度を聴き分けるのが苦手な人は多いですが、短3度は比較的つかみやすい人が多いです。長6度は短3度の転回なので、「短3度をひっくり返した音」として捉え直せます。同じことが、
- 長7度 ⇄ 短2度(半音のぶつかり)
- 短7度 ⇄ 長2度
- 短6度 ⇄ 長3度
- 完全4度 ⇄ 完全5度
のすべてで使えます。2度と3度の4種類を確実に覚えれば、6度と7度は転回で導けるということです。実際の聴音の学習では、この方針が効率的です。
複音程 — オクターブを超える音程
ここまでは1オクターブ以内(単音程)を扱ってきました。それを超えるものを複音程と呼びます。
数え方は単音程と同じで、両端を含めて文字を数えるだけです。C4 から E5 なら10個数えるので10度です。
複音程は7を引くと単音程に還元できます(オクターブぶんを取り除く操作です。9ではなく7を引く点に注意)。
- 9度 → 2度
- 10度 → 3度
- 11度 → 4度
- 13度 → 6度
種類は還元しても変わりません。長10度を還元すると長3度、完全11度を還元すると完全4度です。
この 9・11・13 という数字は、ポピュラー音楽のコードネームでそのまま使われます。C9、Cadd9、C11、C13 の数字は複音程の度数です。なぜ 9th であって 2nd と書かないのか——それは実際にオクターブ上に積まれているからで、後のユニット(テンションコード)でこの記法の意味を扱います。
確認
完全12度を単音程に還元すると何になりますか?
転回音程と和音の転回形はつながっている
最後に、この節が後でどう使われるかを予告しておきます。
C メジャーの和音は C–E–G で、下から長3度と短3度が積まれています。この和音の低音を E に変えると(第1転回形)、E–G–C になり、下から短3度と完全4度が積まれた形になります。
この構造の変化を記述するのが、まさに音程の転回です。和音の転回形は、音程の転回の集まりとして理解できます。ユニット3「和音の構造」で正面から扱います。
音程計算ツールで転回を確かめる C–A(長6度)を出したあと、下の音を A、上の音を C にしてみてください。短3度になり、度数の和が9になることが確認できます 音程計算ツール → 転回関係を使って聴音の負担を減らす まず短3度と長3度を確実にしてから、6度に進んでください。「3度をひっくり返した音」として聴くと、6度の識別が急に楽になります 耳トレーニング →練習問題
答えは理論エンジンで検算しています。まず自分で解いてから採点してください。
- 1
長3度(C–E)を転回すると何になりますか。
- 2
完全5度(C–G)を転回すると何になりますか。
- 3
増4度(F–B)を転回すると何になりますか。
- 4
C4 から E5 までの音程は何ですか。
- 5
長9度を単音程に還元すると何になりますか。
到達確認
次に進む前に、上の項目を自分の言葉で説明できるか確かめてください。