調の近親関係と五度圏
約 15 分
この節のねらい
24の調はばらばらに存在するのではなく、共有する音の数で近さが決まります。五度圏はその近さを一枚の図にしたもので、調号の増減・平行調・同主調・属調という関係がすべて位置として読めます。
- 五度圏が「時計回りに完全5度上」で並んでいることを説明できる
- 平行調・同主調・属調・下属調をそれぞれ定義できる
- 2つの調の近さを共有音の数で判断できる
- 転調しやすい調が五度圏上で隣接する理由を説明できる
ここまでで、長調12・短調12の合わせて24の調が作れることが分かりました。この節では、その24がどう関係しているかを扱います。
結論を先に言うと、調の近さは共有している音の数で決まります。そしてその関係を一枚の図に整理したものが五度圏です。
五度圏 — 完全5度で並べる
五度圏は、時計の文字盤のように12の調を円形に並べた図です。並べ方の規則はひとつだけで、時計回りに完全5度上へ進みます。
C から始めると、5度上は G、その5度上は D、さらに A、E、B、F♯… と進み、12回進むと C に戻ります。
五度を積み上げて一周する
確認: C から完全5度ずつ上がっていく音を鳴らします。ゆっくり進むので、どの隣り合う2音も同じ「5度の距離感」であることを確かめてください。12回でちょうど元の C(の高いオクターブ)に戻るのが五度圏の成り立ちです。
C→G→D→A→E→B
なぜ完全5度で並べるのか。前のユニットで確認したとおり、5度進むごとに調号が1つずつ増えるからです。
- 時計回り(5度上)→ ♯が1つ増える
- 反時計回り(5度下)→ ♭が1つ増える
つまり五度圏上の距離が調号の差になり、そのまま共有音の数の差になります。隣り同士の調は、使う音が1つだけ違います。
確認
ハ長調とニ長調(♯2つ)は何音を共有していますか?
4つの近親関係
24の調のあいだには、名前の付いた重要な関係が4つあります。ハ長調を基準に整理します。
| 関係 | 相手 | 調号の差 | 共有音 |
|---|---|---|---|
| 平行調 | イ短調 | 0(同じ) | 7音(全部) |
| 属調 | ト長調 | 1 | 6音 |
| 下属調 | ヘ長調 | 1 | 6音 |
| 同主調 | ハ短調 | 3 | 4音 |
平行調(relative key)
調号が同じ長調と短調の組です。使う音がまったく同じで、主音だけが違います。長調の主音から短3度下が平行短調の主音になります。
C 長調 ⇄ A 短調、G 長調 ⇄ E 短調、F 長調 ⇄ D 短調。
音を1つも変えずに行き来できるので、もっとも近い関係です。実際の楽曲では、長調の曲の中間部が平行短調になるといった使い方が非常に多く見られます。
属調・下属調(dominant / subdominant key)
主音から完全5度上の調が属調、完全5度下(=4度上)が下属調です。五度圏で時計回りの隣が属調、反時計回りの隣が下属調になります。
どちらも共有音が6音で、変わるのは1音だけ。この近さのおかげで、転調先としてもっとも自然です。クラシックのソナタ形式で第2主題が属調に現れるのは、この近さを利用しています。
同主調(parallel key)
主音が同じで長短が違う関係です。ハ長調とハ短調。調号の差は3つあるので、共有音は4音しかありません。関係としては属調より遠いことになります。
ところが実際の音楽では、同主調の入れ替えは非常によく使われます。理由は主音が動かないことです。調の中心が同じ場所に留まったまま、長短の色だけが切り替わるので、聴き手は混乱せずに劇的な変化を受け取れます。
つまり「共有音の数」だけが近さの指標ではないということです。主音の一致という別の軸があり、同主調はそちらで近い。この2つの軸の違いは、ユニット8で扱う借用和音や転調の技法で重要になります。
4つの関係を和音で聴き比べる
確認: すべてハ長調の主和音から始めて、それぞれの近親調の主和音へ移ります。平行調(Am)はほとんど同じ世界、属調(G)は自然に隣へ移る感じ、同主調(Cm)は同じ場所で色だけが反転する感じ。「近さ」の質が違うことを確かめてください。
調号の差0 — 同じ音の集合
確認
ニ短調(D minor)の平行調は何ですか?
五度圏の下側で異名同音調が出会う
五度圏を時計回りに進むと ♯ が増え、反時計回りでは ♭ が増えます。両方向に進み続けると、円の下側(6時の方向)で出会います。
そこにあるのが F♯ 長調(♯6)と G♭ 長調(♭6)です。ユニット0で扱った異名同音調で、鳴る音は同じですが綴りが違います。
この「出会い」があるおかげで円が閉じます。もし異名同音を認めなければ、5度を積み続けても元の C には決して戻らず(実際、純正な5度を12回積むと元の音よりわずかに高くなります)、円ではなく螺旋になってしまいます。平均律と異名同音の同一視が、五度圏を円にしているわけです。
近さは転調のしやすさ
五度圏の実用的な価値は、転調の設計図として使えることです。
- 隣接する調(属調・下属調)へは、共有音が6音あるのでほとんど何もしなくても移れる
- 平行調へは、音を1つも変えずに中心を移すだけ
- 遠い調(五度圏で3つ以上離れた調)へは、経由地を作るか、共通する和音を仲介にする
ユニット8「転調の技法」では、この距離を実際にどう渡るかを扱います。ここでは地図を持ったことが重要です。「なんとなく近い/遠い」ではなく、共有音の数として数えられるようになりました。
五度圏を実際に触ってみる キーをタップすると、そのキーの調号・ダイアトニックコード・平行調が出ます。隣のキーへ動かして、変わる音が1つだけであることを確かめてください 五度圏(サークル・オブ・フィフス) → 逆に、コードから調を推定する コード進行を入力すると調の候補が出ます。共有音が多い調が複数候補になるのは、この節で見た「近さ」がそのまま曖昧さになるからです キー判定ツール →これでユニット2(音階と調)は終わりです。次のユニットでは、音階の音を積み上げて和音を作ります。ここで身につけた音度と調の地図が、そのまま和音の名前と機能の土台になります。
練習問題
答えは理論エンジンで検算しています。まず自分で解いてから採点してください。
- 1
ハ長調(C major)の平行調はどれですか。
- 2
ハ長調の同主調(同じ主音の短調)はどれですか。
- 3
ハ長調の属調(5度上の調)はどれですか。
- 4
ハ長調とト長調が共有している音は何音ですか。
- 5
五度圏を時計回りに1つ進むと、調号はどう変わりますか。
到達確認
次に進む前に、上の項目を自分の言葉で説明できるか確かめてください。