調号と臨時記号
約 15 分
この節のねらい
調号は五線の左端にまとめて置かれた「この曲ではこの音を変化させる」という宣言です。シャープとフラットが付く順序には五度の理由があり、調号から調を逆算する方法も決まっています。臨時記号の有効範囲まで含めて整理します。
- 調号がなぜ存在するのか(臨時記号の重複を避ける)を説明できる
- シャープとフラットが付く順序を言え、その順序が五度圏に由来することを説明できる
- 調号を見て長調の主音を判定できる
- 臨時記号の有効範囲(同じ小節・同じ高さ)を説明できる
五線と音部記号だけでは、白鍵の音(幹音)しか書けません。黒鍵の音を書くには変化記号が必要です。
変化記号には5種類あります。
| 記号 | 名前 | 働き |
|---|---|---|
| ♯ | シャープ | 半音上げる |
| ♭ | フラット | 半音下げる |
| ♮ | ナチュラル | 変化を取り消す |
| ×(♯♯) | ダブルシャープ | 全音上げる |
| ♭♭ | ダブルフラット | 全音下げる |
重要なのは、変化記号は五線上の位置を変えないことです。C# は C と同じ線・間に書かれます。前の節で見た「五線は音名の文字を写した図」という性質がここに効いています。
調号があるのは、同じ記号を何度も書かないため
ある曲がト長調(G major)で書かれているとします。ト長調の音階は G A B C D E F# G です。つまり曲中に出てくる F は、ほぼすべて F# になります。
これを毎回 ♯ を書いて示すと、譜面が記号で埋まります。そこで五線の左端にまとめて宣言してしまうのが調号です。「この曲では F はすべて F# として読んでください」という一括指定です。
調号のおかげで、譜面は「その調の中の音」を無記号で書けるようになります。逆に言えば、調号から外れた音だけが臨時記号で目立つことになり、和声的に特別な音が視覚的に浮かび上がります。これは読譜上とても大きな利点です。
確認
調号にフラットが3つ付いている曲で、音符の横に何も書かれていない B は、実際にはどの音ですか?
シャープとフラットが付く順序には理由がある
調号の記号は、書き手の気分で並んでいるのではありません。決まった順序があり、その順序には五度の構造があります。
シャープの順序: F → C → G → D → A → E → Bこの2つの順序を見比べると、互いに逆順になっていることが分かります。そしてシャープの順序で隣り合う音名は、すべて完全5度上の関係です(F→C→G→D→A→E→B)。フラットの順序は逆に完全5度下(=完全4度上)です。
なぜこうなるのか。長音階を作るときに変化させる必要がある音が、五度ずつ調が進むごとに1つずつ増えるからです。C 長調(変化なし)から5度上の G 長調に行くと F# が1つ増え、さらに5度上の D 長調に行くと C# が増え… という具合に、五度圏を進むのと調号が増えるのが同じ運動になっています。
この構造はユニット2「調の近親関係」で五度圏として正面から扱います。ここでは「順序が五度に由来する」という事実だけ押さえておけば十分です。
調号が変わると何が変わるか
確認: どれも「ドレミファソラシド」の形(長音階)です。開始音(主音)だけが違い、調号がその形を保つために働いています。3つとも同じ「明るい音階」に聞こえること、しかし高さが違うことを確かめてください。
変化記号ゼロ
調号から調を判定する
調号を見て「何調か」を言えるようにしておくと、譜面を読む速度が変わります。長調については機械的な方法があります。
シャープ系: 最後に付いたシャープの音名で1つ上(半音上)が主音。
- ♯1つ(F#)→ F の1つ上 = G 長調
- ♯3つ(最後は G#)→ G の1つ上 = A 長調
- ♯5つ(最後は A#)→ A の1つ上 = B 長調
フラット系: 最後から2番目のフラットの音名がそのまま主音。
- ♭2つ(Bb, Eb)→ 最後から2番目は Bb = Bb 長調
- ♭4つ(Bb, Eb, Ab, Db)→ Ab 長調
- ♭1つだけは例外で F 長調(覚えるしかありません)
| 調号 | 長調 | 短調(平行調) |
|---|---|---|
| なし | C | A m |
| ♯1 | G | E m |
| ♯2 | D | B m |
| ♯3 | A | F♯ m |
| ♯4 | E | C♯ m |
| ♯5 | B | G♯ m |
| ♯6 | F♯ | D♯ m |
| ♭1 | F | D m |
| ♭2 | B♭ | G m |
| ♭3 | E♭ | C m |
| ♭4 | A♭ | F m |
| ♭5 | D♭ | B♭ m |
| ♭6 | G♭ | E♭ m |
ここで重要な注意があります。1つの調号は2つの調を表します。長調と、その平行調(短3度下の短調)です。調号が同じなら使う音の集合が同じなので、記号だけでは区別がつきません。
区別するには譜面の中身を見る必要があります。実用的な手がかりは、
- 曲の最初と最後の音・和音(主音に着地する)
- 短調では第7音が半音上げられる(臨時記号として現れる)
の2つです。とくに2つ目は強い手がかりで、ハ短調の譜面には調号にない B ナチュラルが頻繁に出てきます。これは短調の導音で、次のユニット以降で和声の中心的な話題になります。
確認
調号にフラットが2つ(Bb, Eb)付いています。この調号が表す短調は?
臨時記号の有効範囲
調号から外れた音を書くときに使うのが臨時記号です。ここには明確なルールがあります。
臨時記号は、その小節の中で、同じ高さの音にだけ有効。つまり、
- 小節線を越えると無効になる(次の小節では最初から書き直す)
- 同じ音名でも別オクターブには及ばない(F#4 に付けても F#5 は変化しない)
- 同じ小節・同じ高さなら、以降の音符に書かなくても効いている
実際の楽譜では、読み間違いを防ぐために親切臨時記号(courtesy accidental)を書くことがあります。小節が変わって無効になった箇所に、念のため ♮ を括弧つきで書くなどの慣習です。規則上は不要ですが、演奏者の事故を減らします。
確認
ある小節の1拍目に ♭ 付きの E があります。同じ小節の3拍目に、1オクターブ上の E が出てきました。この音は?
ダブルシャープ・ダブルフラットが必要な理由
「C## は D と同じ音なのだから、D と書けばいいのに」と思うかもしれません。しかし重変化記号は、譜面の都合ではなく音楽の構造から必要になります。
たとえば嬰ト短調(G# minor)の和声的短音階は、第7音を半音上げます。第7音は F# なので、上げると F×(Fダブルシャープ)です。ここで「G と書けばいい」とはできません。第7音は音度としてFでなければならず、G と書くと第8音(主音)と文字が重複してしまいます。
この「音度は文字で決まる」という原則が、次の節(異名同音)の主題です。
五度圏で調号の並びを見る 時計回りに1つ進むごとにシャープが1つ増え、反時計回りに進むとフラットが1つ増えます。調号の順序が五度の運動そのものであることが視覚的に分かります 五度圏(サークル・オブ・フィフス) → 調号が3つ付く音階を鳴らす 変ホ長調の音階です。鍵盤上でどの黒鍵を使っているかを見ると、調号の3つのフラットが具体的にどの音かが分かります スケール(音階)辞典 →練習問題
答えは理論エンジンで検算しています。まず自分で解いてから採点してください。
- 1
ト長調(G major)の調号はシャープいくつですか。
- 2
変ホ長調(Eb major)の調号はフラットいくつですか。
- 3
シャープが付く順序を、音名(英語表記)で最初の4つ並べてください。半角スペース区切りで答えてください。
- 4
調号にシャープが4つ付いています。長調の主音はどれですか。
- 5
4分の4拍子の小節の2拍目にシャープが付いた F があります。同じ小節の4拍目に、同じ高さの F が出てきました。この F は?
到達確認
次に進む前に、上の項目を自分の言葉で説明できるか確かめてください。