転回形と数字付き低音
約 15 分
この節のねらい
どの音を一番下に置くかで和音の姿が変わります。構成音は同じでも安定度とバス旋律の動きが変わり、それを記録するのが数字付き低音です。6 や 6-4 という数字が何を数えているのかを正確に理解します。
- 三和音の3つの転回形を、バスに来る音で区別できる
- 数字付き低音の 6 / 6-4 が「バスからの音程」を示していると説明できる
- 第2転回形が不安定な理由をバスに対する4度から説明できる
- コードネームのスラッシュ表記と数字付き低音の対応を説明できる
三和音は3つの音からできています。ということは、どの音を一番下に置くかで3通りの配置があります。
構成音は同じなので「同じ和音」ですが、響きの安定度も、バス(最低音)が描く旋律も変わります。この違いを扱うのが転回形です。
3つの配置
| 形 | バスに来る音 | 配置 | 数字付き低音 |
|---|---|---|---|
| 基本形 | 根音 | C–E–G | (5⁄3。慣例で省略) |
| 第1転回形 | 第3音 | E–G–C | 6 |
| 第2転回形 | 第5音 | G–C–E | 6⁄4 |
呼び名は「バスに来るのが何番目の音か」ではなく、根音から何回転回したかで決まります。根音を1回上へ動かすと第1転回形、もう1回動かすと第2転回形です。
数字は「バスからの音程」を数えている
数字付き低音(figured bass)の数字が何を意味しているのか。これはバスから上の音までの音程です。ここを誤解すると全部が混乱します。
第1転回形 E–G–C を見ます。バスは E です。
- E から G まで → 3度
- E から C まで → 6度
3度と6度が乗っているので、本来は「6⁄3」と書くべきところですが、3度は当然あるものとして省略し、特徴的な 6 だけを書きます。これが「6」の意味です。
第2転回形 G–C–E ではバスが G です。
- G から C まで → 4度
- G から E まで → 6度
こちらは 6 と 4 の両方を書いて「6⁄4」になります。
基本形 C–E–G はバスから3度と5度なので「5⁄3」ですが、これが最も普通の形なので何も書きません。数字付き低音は「普通でないこと」だけを記録する記法です。
確認
数字付き低音の「6」は、何から何までの音程を表していますか?
転回すると響きの安定度が変わる
3つの形は構成音が同じですが、安定度がはっきり違います。
3つの配置を聴き比べる
確認: 構成音は3つとも C・E・G です。基本形はもっとも安定して「終われる」響き。第1転回形はやや軽く、次へ進む感じ。第2転回形はバスに対して4度があるため明確に不安定で、単独では終われないことを確かめてください。
バス = 根音。もっとも安定
なぜ第2転回形は不安定なのか
理由はユニット1で扱った低音に対する完全4度です。
第2転回形 G–C–E では、バス G から根音 C までが完全4度になります。単独の完全4度は協和音程ですが、低音に対する4度は機能和声では不協和として振る舞うのでした。
そのため第2転回形は「そこで終われない形」になり、決まった場所で決まった使い方をされます。もっとも重要なのがカデンツの直前で、主和音の第2転回形が属和音の前に置かれる形(いわゆるカデンツの 6⁄4)です。ユニット4で扱います。
第2転回形は次へ進むための形
確認: 1つめは第2転回形で止めたもので、終わった感じがしません。2つめはそこから属和音・主和音へ進んだ形で、第2転回形が「通過点」として機能していることが分かります。この使い方が古典和声の定型です。
終われない
バス旋律を作るために転回を使う
転回形の実用的な価値は、バスの動きを設計できることです。
すべての和音を基本形で並べると、バスは根音を飛び回ることになります。転回形を使えば、バスを滑らかに動かせます。
これはユニット5「4声体書法」で本格的に扱う技術です。転回形は響きの変化のためだけでなく、バス旋律を作るための道具だと理解しておいてください。
コードネームのスラッシュ表記との対応
ポピュラー音楽では転回形をスラッシュで書きます。
| 数字付き低音 | コードネーム | 配置 |
|---|---|---|
| (基本形) | C | C–E–G |
| 6 | C/E | E–G–C |
| 6⁄4 | C/G | G–C–E |
スラッシュの後ろはバス音です。「C/E」は「C の和音で、バスは E」という意味になります。
2つの記法は同じことを別の方法で記録しています。
- 数字付き低音はバスからの音程を書く(バスが前提、上は相対的)
- スラッシュ表記はバスの音名を書く(和音が前提、バスを指定)
どちらが優れているという話ではなく、前提が違うのです。数字付き低音はバス声部を先に書く作曲法(通奏低音)から生まれ、スラッシュ表記はコードを先に決める作曲法から生まれました。この対応関係は、このユニットの最後の節でさらに整理します。
確認
コードネーム「F/A」はどの転回形ですか?
転回しても和音の機能は変わらない
最後に重要な原則を1つ。転回しても、その和音が調の中で果たす役割(機能)は変わりません。
C–E–G も E–G–C も G–C–E も、すべて「C の和音」です。ハ長調ならどれも主和音(トニック)として機能します。安定度や滑らかさは変わりますが、和声分析上は同じ和音として扱われます。
だからローマ数字でも、根音の音度は変えずに転回数字だけを添えます(I、I6、I64)。根音が和音の身元を決め、バスは配置を決めるという役割分担です。
この原則があるおかげで、和声の分析が配置の細部に振り回されずに済みます。次の節で七の和音を扱い、その次でローマ数字を正式に導入します。
コード検索で構成音を確かめる C の構成音 C・E・G を確認したうえで、バスをどの音にしても同じ3音であることを意識してください コード検索 → ギターでの転回形を見る ギターのコードフォームは、実は転回形が混ざっています。一番低い弦がどの音かを見ると、基本形ではないフォームが多いことに気づきます コードダイアグラム →練習問題
答えは理論エンジンで検算しています。まず自分で解いてから採点してください。
- 1
C メジャー三和音の第1転回形で、バス(一番下)に来る音は何ですか。
- 2
C メジャー三和音の第2転回形で、バスに来る音は何ですか。
- 3
三和音の第1転回形を表す数字付き低音の記号はどれですか。
- 4
三和音の第2転回形を表す数字付き低音の記号はどれですか。
- 5
第2転回形が不安定に感じられる主な理由は何ですか。
到達確認
次に進む前に、上の項目を自分の言葉で説明できるか確かめてください。