聴音とソルフェージュ · 節 1
音程と和音の聴き分け
約 15 分
この節のねらい
聴音のすべての土台になる2つの識別です。絶対的な高さではなく差を聴くこと、そして一度に1つの区別だけを判断する手順を身につけます。
- 相対的な聴き方と絶対的な聴き方の違いを説明できる
- 音程を協和度・幅・種類の3段階で絞り込む手順を説明できる
- 三和音4種を第3音と第5音の組み合わせから判別できる
- 転回形が混ざっても和音の種類が変わらない理由を説明できる
ここまでの10ユニットは、譜面と理屈の側から音楽を組み立ててきました。最後のユニットでは向きを逆にします。聴こえた音楽を、記号に戻す訓練です。
相対的に聴く
まず前提を1つ確認します。聴音に絶対音感は要りません。
聴音で問われるのは「今の音は A だ」ではなく「今の音は主音から3つ上だ」です。基準を1つ与えられれば、そこからの距離で全部を測れます。これを相対的な聴き方といいます。
| 絶対的な聴き方 | 相対的な聴き方 | |
|---|---|---|
| 判断するもの | 音そのものの高さ | 基準からの距離 |
| 移調すると | 答えが変わる | 答えは変わらない |
| 訓練で伸びるか | 幼少期の臨界期が関係するとされ、議論が続いている | いつからでも伸びる |
絶対音感を成人になってから習得できるかは、まだ決着していない問題です。ここで重要なのはその議論に関わらず聴音は伸びるということです。聴音が要求するのは相対音感であり、こちらは訓練の効果がはっきりしています。
本ユニットのすべての課題は相対的な聴き方を前提にします。だから練習では毎回違う調で出題するのが正しいやり方です。同じ調ばかりで練習すると、距離ではなく音そのものを覚えてしまいます。
音程は3段階で絞る
音程は13種類あります。いきなり1つを選ぶのは難しいので、段階的に絞ります。
第1段階 — 協和か不協和かU1 で扱った分類がそのまま使えます。完全協和(1度・5度・8度)、不完全協和(3度・6度)、不協和(2度・7度・トライトーン)。この3つは響きの性質がはっきり違うので、まず耳で分けられます。
第2段階 — 広いか狭いか協和度が同じ候補の中で、幅を判断します。3度と6度、2度と7度。転回関係にある2つは響きが似ているので、幅で区別します。
第3段階 — 長か短か最後に半音1つぶんの差を判断します。長3度と短3度、長6度と短6度。ここが明暗の分かれ目です。
3段階の分岐を順に聴く
確認: 上から順に、判断の段階が下がっていきます。1つめは完全5度と長3度で、協和度そのものが違います。2つめは長3度と長6度で、協和度は同じで幅が違います。3つめは長3度と短3度で、幅も同じで種類だけが違います。下に行くほど差が小さくなり、聴き分けが難しくなるのが分かるはずです。
完全5度 → 長3度
同時に鳴らすか順に鳴らすかでも難易度が変わります。順に鳴らすほうが幅を測りやすく、同時に鳴らすほうが協和度を判断しやすい。両方で練習すると手がかりが増えます。
確認
長3度と短6度は転回の関係にあります。この2つを聴き分けるとき、最も有効な手がかりはどれですか。
三和音は第3音から聴く
三和音は4種類あります。判別は2つの音を順に確かめるだけです。
| 種類 | 第3音 | 第5音 | 構成音(C 上) |
|---|---|---|---|
| 長三和音 | 長3度 | 完全5度 | C E G |
| 短三和音 | 短3度 | 完全5度 | C Eb G |
| 減三和音 | 短3度 | 減5度 | C Eb Gb |
| 増三和音 | 長3度 | 増5度 | C E G# |
手順は第3音が先です。長3度か短3度かで明暗が決まり、候補が4つから2つに減ります。そのあと第5音が完全5度かどうかを確かめます。
第5音の判断には別の手がかりもあります。減三和音と増三和音は落ち着かない。完全5度が無いので和音として安定せず、次へ行きたがる響きになります。「明るいのに落ち着かない」なら増三和音、「暗くて落ち着かない」なら減三和音です。
三和音4種を聴き比べる
確認: どれも C を根音にしています。1つめと4つめは第3音が長3度なので明るく、2つめと3つめは短3度なので暗く聴こえます。そのうえで3つめと4つめは第5音が完全5度でないため、宙に浮いたまま止まります。まず明暗、次に安定するかどうか、という順で判断してみてください。
C
七の和音は「三和音+第7音」で分ける
七の和音5種も、同じ分解で判別できます。まず下の三和音、次に第7音です。
| 種類 | 下の三和音 | 第7音 | 例 |
|---|---|---|---|
| 長七 | 長 | 長7度 | Cmaj7 |
| 属七 | 長 | 短7度 | C7 |
| 短七 | 短 | 短7度 | Cm7 |
| 半減七 | 減 | 短7度 | Cm7b5 |
| 減七 | 減 | 減7度 | Cdim7 |
長七と属七の違いは第7音だけです。長七は柔らかく漂い、属七は次へ行きたがる。これは U4 で扱ったトライトーンの有無から来ています。属七には第3音と第7音のトライトーンがあり、長七にはありません。
確認
Cmaj7 と C7 を聴き分けるとき、決め手になるのはどこですか。
転回形が混ざっても種類は変わらない
実際の音楽では和音が転回されて鳴ります。ここで大事な事実があります。
最低音が変わっても、和音の種類は変わりません。長三和音か短三和音かは「どの音が集まっているか」で決まり、「どの音が下にあるか」では決まらないからです。E G C は C E G の第1転回であって、依然として長三和音です。
同じ和音を3つの位置で
確認: 3つとも C の長三和音で、構成音はまったく同じです。並べ替えているだけです。明るさは変わらないはずですが、重心の位置が変わります。1つめはどっしりし、2つめは軽く、3つめは宙に浮きます。種類(明るいか暗いか)と位置(どっしりしているか)を別々に聴き取る練習になります。
バスは C
ただし印象は変わります。U3 で扱ったとおり、第2転回は不安定で、第1転回は軽い。聴音では「種類」と「位置」を別々に聴き取ります。種類は音の集まりから、位置は最低音から判断します。
練習の設計
最後に、練習そのものの組み立て方です。原則は1つです。
一度に1つの区別だけを変える。長3度と短3度だけを混ぜて練習し、正答率が安定したら次の対を足す。最初から13種類を混ぜると、どこで間違えているのかが分からず、上達の手がかりが得られません。
同じ理由で、和音も「長と短だけ」から始めて、減・増、七の和音、転回形の順に足していきます。
耳トレーニングで音程と和音を練習する 初級では長3度・短3度・完全5度のような判別しやすい対から出題されます。正答率が8割を超えたら中級に上げてください 耳トレーニング →音程と和音の識別は、聴音のすべての土台です。次の節では、これを複数の和音のつながりに広げます。カデンツの聴き分けです。
練習問題
答えは理論エンジンで検算しています。まず自分で解いてから採点してください。
- 1
協和度と幅から6度だと絞り込めました。C の上に鳴っていたのが Ab だとすると、この音程は何ですか。
- 2
C から Gb までの音程は何ですか。
- 3
C を根音とする減三和音の構成音はどれですか。
- 4
和音が転回されて最低音が変わっても、和音の種類(長・短・減・増)が変わらないのはなぜですか。
- 5
音程を聴き分けるときの手順として最も合理的なのはどれですか。
到達確認
次に進む前に、上の項目を自分の言葉で説明できるか確かめてください。
出典・参考
- Absolute pitch — Wikipedia — 絶対音感が幼少期の臨界期に関係するとされることと、成人期に習得できるかは議論が続いていること、および絶対音感と相対音感が別の能力であることについて