教会旋法(モード)
約 15 分
この節のねらい
7つの教会旋法は、長音階の白鍵をどの音から弾き始めるかで生まれます。各モードの性格は「長音階のどこが違うか」という1〜2音の差で決まり、その差を作る音を特性音と呼びます。同じ主音で並べて聴き比べます。
- 7つのモードが長音階の開始音を変えることで得られると説明できる
- 各モードの特性音(長音階との差)を指摘できる
- モードを長系(明るい)と短系(暗い)に分類できる
- リディアンとミクソリディアンの違いを1音の差として説明できる
前の節で「イ短調はハ長調と同じ音の集合で、主音が違うだけ」と確認しました。この発想をすべての音度に広げると、7つの音階が得られます。これが教会旋法(モード)です。
白鍵をどこから弾き始めるか
ハ長調の白鍵7音は固定しておいて、開始音だけを変えます。
| 開始音 | モード名 | 性格 |
|---|---|---|
| C | アイオニアン | =長音階 |
| D | ドリアン | 短系・やや明るい |
| E | フリジアン | 短系・強い緊張 |
| F | リディアン | 長系・浮遊感 |
| G | ミクソリディアン | 長系・開放的 |
| A | エオリアン | =自然的短音階 |
| B | ロクリアン | 不安定・実用例が少ない |
アイオニアンは長音階、エオリアンは自然的短音階そのものです。つまり私たちが「長調」「短調」と呼んでいるものは、7つのモードのうちの2つにすぎません。
名前の由来には注意が要る
ここで扱った「長音階の開始音を変える」という整理は、20世紀のジャズ理論以降に広まった現代のモード概念です。中世の教会旋法は、終止音・音域・詩篇唱の型を含んだ別の体系で、正格と変格を対にして8つ数えていました。ドリアンやフリジアンという名前はさらに古代ギリシャの音階論から借りたものですが、同じ名前でも音の並びは対応していません。
このカリキュラムで扱うのは現代の用法です。「教会旋法」という呼び名は慣用として残っているものだと理解しておくと、中世音楽の解説を読んだときに混乱しません。
歴史的には順序が逆で、中世・ルネサンスの音楽はモードで書かれ、そのうちアイオニアンとエオリアンが支配的になって「長調・短調」の体系(機能和声)に発展しました。他の5つは主流から外れましたが、20世紀に民族音楽・ジャズ・ロックを通じて復活しました。
同じ白鍵、7つの違う音階
確認: どれも白鍵だけを弾いています。開始音が違うだけで、明るさや緊張感がまったく変わることを確かめてください。とくにフリジアン(E から)とロクリアン(B から)の落ち着かなさが分かりやすいはずです。
=長音階
特性音 — 長音階との1音差で捉える
「白鍵をどこから」という説明は覚えやすいのですが、実用では役に立ちません。演奏や作曲で必要なのは「D ドリアンを弾け」と言われたときにD からその音階を出せることです。
そこで同じ主音に揃えて、長音階(または短音階)との差で捉え直します。差を作る音を特性音と呼びます。
長系モード(第3音が長3度)| モード | 長音階との差 | 特性音 |
|---|---|---|
| アイオニアン | なし | — |
| リディアン | 第4音が半音高い | ♯4 |
| ミクソリディアン | 第7音が半音低い | ♭7 |
| モード | 自然的短音階との差 | 特性音 |
|---|---|---|
| エオリアン | なし | — |
| ドリアン | 第6音が半音高い | ♮6 |
| フリジアン | 第2音が半音低い | ♭2 |
| ロクリアン | 第2音と第5音が低い | ♭2・♭5 |
この表の使い方はこうです。C リディアンが必要なら、ハ長調(C D E F G A B)の第4音だけを上げて C D E F♯ G A B。C ドリアンなら、ハ短調(C D E♭ F G A♭ B♭)の第6音だけを上げて C D E♭ F G A B♭。
主音を揃えて1音差を聴く
確認: すべて C を主音にしています。長音階と比べて何が1音違うかに注意して聴いてください。リディアンは第4音が高いので「浮く」感じ、ミクソリディアンは第7音が低いので「終わらない」感じになります。
基準
確認
G ミクソリディアンの第7音は何ですか?
特性音は「1音」でモードを決める
モードの性格が特性音1つで決まるというのは、少し驚くべきことです。7音のうち6音が同じでも、1音違えば別の世界になります。
とくに分かりやすいのがリディアンとミクソリディアンの対比です。どちらも長系(第3音が長3度)で明るいのに、
- リディアン(♯4)→ 上に伸びるような、宙に浮いた明るさ
- ミクソリディアン(♭7)→ 地に足のついた、開放的な明るさ
という違いになります。この差は第4音と第7音というたった1音ずつから生まれています。
なぜ1音でここまで変わるのか。それは特性音が主音との音程関係を変えるからです。♯4 は主音に対して増4度(三全音)を作り、♭7 は主音に対して短7度を作ります。ユニット1で扱った音程の性格が、そのまま音階の性格として現れているわけです。
ロクリアンだけ実用例が少ない理由
7つのうちロクリアンだけが極端に使用例が少ないのは、主和音が減三和音になるからです。
B ロクリアンなら主音 B の上に B–D–F を積みますが、B–F は減5度です。前のユニットで見たとおり減5度は不協和で、内側へ解決したがります。主和音自体が不安定なので、調の中心として機能できません。
「帰る場所」が安定していない音階は、調の骨格を作れない。この事実は逆に、他の6つのモードが機能する理由を教えてくれます。主音の上に協和した三和音(長または短)が立つことが、調の中心が成立する条件なのです。
確認
ドリアンとエオリアン(自然的短音階)は、どちらも短系です。ドリアンのほうが明るく聞こえる理由は?
練習問題
答えは理論エンジンで検算しています。まず自分で解いてから採点してください。
- 1
D ドリアンの音階を、正しい綴りで下から7音並べてください。半角スペース区切りで答えてください。
- 2
C リディアンの音階を、正しい綴りで下から7音並べてください。半角スペース区切りで答えてください。
- 3
ミクソリディアンが長音階と違うのは第何音ですか。
- 4
フリジアンが自然的短音階と違うのは第何音ですか。
- 5
7つのモードのうち、主音の上の三和音が減三和音になるのはどれですか。
到達確認
次に進む前に、上の項目を自分の言葉で説明できるか確かめてください。
出典・参考
- Mode (music) — Wikipedia — 中世の教会旋法(終止音・音域・詩篇唱の体系)と、長音階の開始音を変えた回転として扱う現代のモード概念が別物であること、および現代のモード名がギリシャ語由来でありながら古代ギリシャの音階配列とは対応しないことについて