20世紀以降とポピュラー · 節 3
全音音階と八音音階
約 15 分
この節のねらい
同じ間隔の繰り返しでできた音階は、移調しても同じ音の集まりに戻ります。主音が定まらないという性質が、20世紀の作曲家に色彩として使われた理由です。
- 対称音階を「一定の間隔パターンの繰り返しで作られる音階」として定義できる
- 全音音階が2種類、八音音階が3種類しか存在しない理由を説明できる
- 対称音階に導音が存在しないことと、その帰結を説明できる
- 属七のオルタードテンションが対称音階に由来することを説明できる
ここまで扱ってきた音階は、すべて間隔がばらばらでした。長音階は全全半全全全半、ドリアンは全半全全全半全。この不均等さが音階に「顔」を与えています。
主音がどこかを聴き分けられるのも、不均等だからです。半音が2箇所しかないので、その位置を手がかりに自分がどこにいるかが分かります。
この節では均等な音階を扱います。
全音音階 — 全音だけで1オクターブ
全音だけを積み上げると、12半音を2半音ずつ分けることになるので6音で1オクターブに戻ります。
この音階には顔がありません。どの音から始めても同じ形なので、聴いても自分がどこにいるか分かりません。
具体的に何が失われるかを挙げます。
- 導音が無い — 主音の半音下に音が存在しない
- 完全5度が無い — どの2音を取っても6半音か、その倍数の間隔にしかならない
- 長三和音も短三和音も作れない — 3度堆積をすると必ず増三和音になる
完全5度が無いというのが決定的です。和音の骨格を作る音程が使えないので、機能和声の枠組みが成立しません。
そして全音音階は2種類しかありません。C から始めても D から始めても、集まる音は同じ6つです。C・D・E・F♯・G♯・A♯ のグループと、D♭・E♭・F・G・A・B のグループ。12の音が2つに分かれて終わりです。
全音音階と長音階を聴き比べる
確認: 1つめは普通の長音階です。上がりきったところで「着いた」と感じます。2つめは全音音階で、上がっても着地した感じがしません。半音が1つも無いので、どこが終点なのかを耳が判断できないからです。3つめは全音音階から作った増三和音で、こちらも根音がどれか決められません。均等であることの代償が「中心の喪失」です。
半音が2箇所ある
確認
全音音階の上で3度堆積の三和音を作ると、必ず増三和音になるのはなぜですか。
八音音階 — 全音と半音の交替
全音と半音を交互に並べると8音で1オクターブに戻ります。
始め方が2通りあるので、名前も2つあります。
| 名前 | 並び | ハ音上 |
|---|---|---|
| 全半音階 | 全・半・全・半… | C D Eb F Gb Ab A B |
| 半全音階 | 半・全・半・全… | C Db Eb E Gb G A Bb |
この2つは同じ音階です。全半音階を2番目の音から読み始めると半全音階になります。どちらの名前で呼ぶかは、どの音を根音として使うかによります。
- 全半音階 — 減七の和音の上で使う
- 半全音階 — 属七の上で使う
そして八音音階も3種類しかありません。根音を半音ずつ上げていくと、3つ目で元の音の集まりに戻るからです。
減七の和音が3種類しかないのも同じ理由
U3 で扱った減七の和音は、短3度を3つ積んだものでした。短3度は3半音なので、根音から数えて 0・3・6・9。次に積むと12、ちょうど1オクターブです。
短3度4つで1オクターブちょうど。この均等さが、減七の和音を対称的にしています。
だから減七の和音はどの音を根音とみなしてもよいことになります。Cdim7 は E♭dim7 でも G♭dim7 でも B♭♭dim7 でもある。この曖昧さは、U8 で扱った異名同音転調のもう1つの入口です。1つの減七の和音から4方向へ解決できます。
減七の和音を半音ずつ上げていく
確認: Cdim7 から半音ずつ上げていきます。1つめ、2つめ、3つめはそれぞれ違う響きに聞こえるはずです。4つめでもう一度聴いてください。1つめとまったく同じ音の集まりに戻っています。3つで一巡するので、世の中の減七の和音は本質的に3種類しかありません。
1つめ
オルタードテンションの出どころ
前の節で属七のオルタードテンションを4つ挙げました。あれは思いつきの飾りではなく、対称音階から取り出されたものです。
C の半全音階は C D♭ E♭ E G♭ G A B♭。ここから C7 の構成音(C E G B♭)を除くと、残るのは D♭・E♭・G♭・A です。
| 残った音 | C7 から見ると |
|---|---|
| Db | ♭9 |
| Eb(=D♯) | ♯9 |
| Gb(=F♯) | ♯11 |
| A | 13 |
属七に半全音階を重ねると、♭9・♯9・♯11・13 が自動的に得られます。前節で「属七の上では変化音が自由に使える」と書いたのは、この音階が背後にあるからです。
ただし ♭13(C7 なら A♭)は半全音階に含まれません。半全音階が持つのは自然な13thの A のほうです。♭13 を使いたいときは別の音階、たとえば全音音階に由来する形を考えます。C7(♯5♯11) の構成音 C・E・G♯・B♭・F♯ はすべてハ音上の全音音階に含まれます。
確認
対称音階が20世紀に色彩として使われた理由として、最も的確なのはどれですか。
対称音階は均等さと引き換えに中心を失った音階でした。次の節では、対称性を逆に利用します。属七のトライトーンという対称的な構造を使って、和音そのものを別のものに置き換える技法です。
練習問題
答えは理論エンジンで検算しています。まず自分で解いてから採点してください。
- 1
ハ音から始まる全音音階は、何音でできていますか。
- 2
全音音階に導音が存在しないのはなぜですか。
- 3
C の半全音階(半音と全音を交互に並べた八音音階)の構成音はどれですか。
- 4
減七の和音が実質3種類しか存在しないのはなぜですか。
- 5
C7(♭9) の構成音はどれですか。
到達確認
次に進む前に、上の項目を自分の言葉で説明できるか確かめてください。