20世紀以降とポピュラー · 節 2
モード的和声
約 15 分
この節のねらい
緊張と解決で進む和声をやめて、1つの旋法の色を保ったまま音楽を成り立たせる方法です。特性音の扱いと、なぜ属和音から主和音への進行を避けるのかを扱います。
- 機能和声とモード的和声の駆動原理の違いを説明できる
- 各旋法の特性音を挙げ、それを目立たせる和音を選べる
- モードを保つために属和音から主和音への進行を避ける理由を説明できる
- I–♭VII–IV のような進行が旋法的である理由を説明できる
U2 で7つの教会旋法を音階として扱いました。あのときは「白鍵をどの音から弾き始めるか」の話でした。
この節では和声の話をします。旋法の上で和音を鳴らすと、機能和声とは違う進み方が要るのはなぜか、という問題です。
2つの駆動原理
機能和声は緊張と解決で動きます。トニックから離れ、ドミナントで最大の緊張に達し、トニックへ帰る。U4 で扱ったとおり、この往復が推進力です。
モード的和声はこれを使いません。代わりに1つの旋法の色を保ち続けることで音楽を成り立たせます。
| 機能和声 | モード的和声 | |
|---|---|---|
| 駆動するもの | 緊張と解決の往復 | 旋法の色の持続 |
| 主音の確立 | 属和音の導音による | 反復・持続低音・強拍配置による |
| 和音進行 | 方向がある | 方向より配色 |
| 避けるもの | 平行5度など | 導音を作ること |
いちばん重要な行が最後です。モード的和声では導音を作ることが避けられます。
理由は単純で、導音があると耳が勝手に長調か短調として聴いてしまうからです。C ドリアンの上で G7 を鳴らした瞬間、聴き手は B を聴き取り「ハ長調だ」あるいは「ハ短調の V だ」と解釈します。ドリアンの特性音である A は、その解釈の中では単なる通りすがりの音になってしまいます。
特性音を目立たせる
旋法を旋法として聴かせるには、他の旋法との違いになっている音を前に出す必要があります。これを特性音といいます。
| 旋法 | 比較対象 | 特性音 | ハ音上での例 |
|---|---|---|---|
| ドリアン | ナチュラルマイナー | 第6音(♮6) | A |
| フリジアン | ナチュラルマイナー | 第2音(♭2) | Db |
| リディアン | 長調 | 第4音(♯4) | F# |
| ミクソリディアン | 長調 | 第7音(♭7) | Bb |
特性音を目立たせる最も確実な方法は、その音を含む和音を主和音と往復させることです。
C ドリアンで第4音の上に三和音を建てると F A C、長三和音になります。ナチュラルマイナーなら A が Ab なので Fm になるところです。
つまり Cm と F を往復するだけでドリアンが立ち上がります。IV が長三和音であることが、そのまま特性音 A を鳴らすことになるからです。
i – iv と i – IV の違い
確認: どちらもハ音を主音とする短調系の響きです。1つめは iv が短三和音(Fm)で、これは普通のナチュラルマイナーです。2つめは IV が長三和音(F)で、これがドリアンです。違いは Ab か A かの1音だけですが、2つめは暗さの中に妙な明るさが差します。この宙ぶらりんな明るさがドリアンの正体です。
Cm – Fm – Cm
確認
C リディアンの特性音は F# です。この音を最も直接的に鳴らす和音はどれですか。
ミクソリディアンと ♭VII
長調系の旋法で最も使われるのがミクソリディアンです。ハ音上なら C D E F G A B♭。長調との違いは第7音だけです。
この1音の変更が持つ意味は大きいです。導音が消えます。B が B♭ になると、主音の半音下という位置に音が無くなる。だから属和音から主和音への引力が働かなくなります。
第7音の上に三和音を建てると B♭ D F、長三和音の ♭VII です。
U8 でこの ♭VII を「借用和音」として扱いました。あのときは「ハ長調に短調から借りてきた和音」という説明でした。ここでは別の説明が可能です。ハ音から始まるミクソリディアンのダイアトニック和音。
どちらが正しいかは文脈によります。曲の大部分がハ長調で、一瞬だけ B♭ が出るなら借用です。曲全体を通して B が一度も出ないなら、それはもう長調ではなくミクソリディアンです。
V を使う進行と、♭VII を使う進行
確認: 1つめは属和音の G を通ります。B が鳴るので導音が働き、C に着いたときに「解決した」と感じます。2つめは G の代わりに Bb を通ります。導音が無いので解決した感じは薄く、代わりに色が変わって戻ってきた感じになります。どちらも C で終わりますが、C の意味が違います。
導音 B が働く
主和音の上に第7音が乗る — I7
ミクソリディアンの主音の上に3度堆積で4音積むと C E G B♭、つまり C7 になります。形は属七そのものです。
U8 で「属七が鳴れば次に来る主和音がほぼ確定する」と扱いましたが、ここではそれが起きません。属七が推進力を持つのは第7音とトライトーンが行き先を指すからで、その行き先は導音が主音へ上がることで決まります。ミクソリディアンには導音が無いので、C7 の B♭ は解決先を指しません。形は属七、機能は主和音という状態です。
U8 で副属和音を扱ったとき、「トニックの上に第7音が乗る形(V7/IV)」に触れました。ブルースやロックの I7 はこれと同じ和音ですが、IV へ進まずそのまま居座ります。居座った時点でそれは副属和音ではなく、旋法的な主和音です。だから12小節ブルースの1小節目の I7 を「IV への副属和音」と分析しても、その IV が来ないので説明になりません。
確認
C ミクソリディアンの主音の上に四和音を積むと C7 になります。この C7 が属七として機能しないのはなぜですか。
モードを保つための道具
導音を使わずに主音を主音として聴かせるには、別の手段が要ります。
- 持続低音 — 主音をベースに鳴らし続ける。U6 の保続音と同じ仕組みで、動かない音が中心を作る
- 反復 — 短い和音の往復を繰り返す。回数そのものが「ここが中心だ」と伝える
- 強拍への配置 — 主和音を小節の頭に置き続ける
- 4度堆積 — 3度でなく4度で和音を積むと長短の区別が薄れ、旋法の色が前に出る
どれも「引力で引き寄せる」のではなく「そこに居続ける」ことで中心を作る方法です。機能和声が動きで語るのに対し、モード的和声は滞在で語ります。
そのぶん和音の数は減ります。2つか3つの和音を往復させるだけの曲が多いのは、和声で物語を進める必要が無いからです。物語は旋律とリズムが担い、和声は舞台の色を保ちます。
確認
モード的な曲で和音の種類が少ないことが多いのはなぜですか。
モード的和声は7音の旋法の枠内で色を作る方法でした。次の節では、7音という前提自体を外します。同じ間隔の繰り返しでできた対称音階です。
練習問題
答えは理論エンジンで検算しています。まず自分で解いてから採点してください。
- 1
C ドリアンの構成音はどれですか。
- 2
モード的な音楽で、属和音から主和音への進行が避けられるのはなぜですか。
- 3
C ミクソリディアンの構成音はどれですか。
- 4
C ドリアンの第4音の上に3度堆積で三和音を建てると、構成音はどうなりますか。
- 5
I – ♭VII – IV – I という進行が旋法的だと言えるのはなぜですか。
到達確認
次に進む前に、上の項目を自分の言葉で説明できるか確かめてください。